戦争はいつまで・・・?

今回は、渡邉哲也さんの著書「ロシア発 世界恐慌が始まる日
~新たな戦勝国と敗戦国が決まる~」という本の内容を紹介します。

ロシアによるウクライナ侵攻は、停戦や終戦によって簡単に
片付く問題ではありません。
安全保障理事会の常任国であるロシアが、侵略行為によって
力での現状変更を行ったばかりか、悪びれる事もなく
堂々と国際法違反をしたことは、国連による安全保障機構が
全く意味を持たなくなったと言えるでしょう。

今や、世界では東西冷戦が再び復活し、資源を持っていない
日本経済の行方には暗雲が立ち込めつつあります。
ロシアとG7、EUは分断されてしまい、ロシアを国際社会から
排除する方向で経済制裁を行っていますが、エネルギーや食糧の
輸出大国であるロシアとの分断は、資源を持たず、食料自給率の
低い国にとっては深刻なダメージとなります。

日本も、ロシアとの協力関係を築いてきた国の1つなので、
国内で流通する鮭やウニなどの海産物が高騰し、小麦粉の価格も
上昇傾向にあります。

戦争の影響を少なからず受けているのですが、本当に問題なのは
個別の食材価格の上昇に留まりません。
私たちの生活は、軍事、経済、政治など、あらゆる面から
脅かされようとしていますので、如何にしてこの未曽有の危機を
乗り越えていくべきか・・・?

真剣に考えなければいけません。

原油、小麦、円安のトリプルパンチ

2022年2月24日に始まったロシアによるウクライナ侵攻は、地政学的
だけではなく、地経学的にも世界を完全に分断しました。
地経学とは、国家が地政学的な目的のために、経済を武器として利用すること
であると定義されていて、21世紀の戦争においては国際経済上の戦略と、
地政学上の戦略が渾然一体となることが、今回のウクライナ戦争によって
証明されました。

地政学的な影響は、現在も日本経済にダメージを与え続けておりますが、
今後ますます深刻化する懸念があり、そのような事態になってしまうと、
日本経済は一体どうなるのでしょうか。

それを知るために、まずは西側諸国がロシアに科した強力な経済制裁の
正体を理解しなければなりません。

ウクライナ侵攻直前の2021年12月7日、アメリカのバイデン大統領は、
プーチン大統領とオンラインで会談し、もしもウクライナに侵攻すれば
プーチン氏がこれまでに見たことのないような経済制裁が発動されると
警告していました。

その言葉通り、ウクライナへの侵攻を開始した直後から、西側各国は
ロシアに対して凄まじいほどの経済制裁を決定し、それは時間の経過と
ともに益々強力なものになっています。

経済制裁をけん引しているのはアメリカとイギリスで、第2次世界大戦前に
アメリカドルが基軸通貨となって以降、石油、穀物といった戦略物資から
武器や麻薬に至るまで、世界中のあらゆる決済はドルが支配してきました。

各国の通貨の価値は、その国が保有するドル資産で裏付けられるという
側面もあり、表の社会だけでなく裏社会でも20世紀以降の経済は
ドル本位制が基本となっています。

このような構図から、アメリカはロシアのドルアクセスを遮断すると
ともに、他国を迂回してドルにアクセスできないよう、G7やEU各国も
足並みを揃えることによって、ロシアは世界経済から完全に締め出された
形となりましたが、アメリカの制裁は、さらにロシアに関与する個人や
法人にまで及びました。

ドルへのアクセスが遮断されれば、金融機関にとっては大問題です。
さらに、企業が対ロシアビジネスを続ければ、金融機関からの融資が
行われなくなるようにして、ロシアに関わる者には経済的な死が
待っているという構図が作り上げられたのです。

ところで、世界の金融の中心地はニューヨークだけではないとご存じですか。
世界経済システムのうち、貿易決済やサービスの市場はイギリス、ロンドンに
ある金融の聖地「シティ・オブ・ロンドン」に集中しているのです。

飛行機や船には保険が掛けられていますが、それらは1回の事故で莫大な
損害額を出すことから、保険会社は別の保険会社に再保険を掛けるのが
習わしとなっています。
この再保険の最大手がイギリスのロイズ保険組合ですが、イギリスによる
経済制裁によって、ロシアは飛行機や船への再保険が掛けられず、
動かすことができなくなってしまいました。
また、ロシアに進出している多くの民間企業にも再保険を掛けることが出来なく
なってしまい、撤退という選択肢しか残されなくなってしまったのです。

金融とサービスの両面を遮断されたことで、多くの民間企業がロシアからの
撤退を進めることになり、ロシアは国際経済から排除されることに
なりましたが、これで終わりという訳にはいきません。

エネルギーや食料の輸出大国であるロシアとの分断は、資源を持たず
食料自給率の低い国に深刻な経済ダメージを与えることになり、日本でも
原油価格や日用品、魚介類や穀物などの価格が上昇しています。

問題はそれだけではなく、コロナ禍からの急回復とグリーン投資の
拡大で化石燃料が高騰し、原油高にプッシュされて、モノの価格は
高騰していきました。

このように、ウクライナ侵攻以前から日本を含む世界各国では、
インフレが深刻化していたのですが、このような状況に拍車をかける
ように、ロシアとの分断によってエネルギーはさらに高くなっています。
経済成長を妨げるほどの高インフレに対応するために、アメリカの
中央銀行は市場からドルを回収する金利引き上げの実行を決め、
この影響によって日本では円安が進行しています。

円安によって輸入価格は上昇し、さらにエネルギー価格や、小麦などの
食料も高騰しています。
このままでは日本国内で満足な生産活動を行うだけのエネルギーを得る
ことができないので、エネルギーの代替生産の確立と、食料生産の自立を
喫緊の課題として議論しなければいけないはずなのですが、この非常事態に
あっても、岸田政権では経済政策について「検討中です」などと言い、
曖昧な態度を繰り返しているのです。

ウクライナ戦争は、軍事面という狭い局面で、戦勝国と敗戦国を区別する
ような単純なものではなく、戦中、戦後を通じて、経済を潤すことができる
ような、経済的な意味での戦勝国になれるのか?
あるいは、疲弊する敗戦国となってしまうのか?
それをスクリーニングしている戦争なのです。

世界の分断は、穀物、資源、エネルギー供給の構造が、従来のものとは
一変することになると思いますが、このような時代の大転換に
乗り遅れれば、日本に待つのは亡国の道だけなのです。

円安の混乱と石油資源の行方

記録的な円安は、日本人の安定的な生活を揺るがし始めています。

これほどの円安が進行したのは、FRB(連邦準備理事会)が金利を
引き上げると発表したからです。
日本の金利は0%の状況だったので、市場では円を売ってドルを買い、
米国債に投資するという流れが加速しました。

2022年1月5日には、東京外国為替市場で5年ぶりに1ドル=116円を超え、
3月には120円台に推移、4月時点で130円台まで円安になりました。

それなら日本もアメリカに同調して、金利を上げてしまえばいいのでは
ないかと思うかもしれませんが、日本ではアベノミクス以降、異次元の
量的緩和を継続し、日本銀行が国債を買い取り続けていますので、
ここで金利を上げてしまうと、債務超過に陥ることが目に見えているのです。
政府が新たに赤字国債を発行すれば済む話ではありますが、それでは
円の信頼が失われていくリスクが高く、利上げは選択肢になりにくいという
事情があり、円安から脱することは簡単な話ではありません。

円安は自動車産業など輸出業界にとってはプラスになるはずなので、
この記録的な円安をプラスに転換する方法はないのでしょうか?

・・・・・・

・・・

現在の日本は、電力不足によってモノの生産ができない状態にあります。
東日本大震災の福島第一原子力発電所の事故を受けて、2012年5月5日に
国内全ての原発が42年ぶりに稼働を停止することになりました。
元々、日本は世界で最も厳しい稼働基準を設けていましたが、
さらに厳しい新基準を設けることになったので、
全原発を審査することになったのです。

さらに、石油や天然ガスといった資源、エネルギーの問題も深刻です。
日本は石油の4%、液化天然ガスの約9%をロシアから輸入している
だけでなく、資源開発事業サハリン1、サハリン2に政府や日本企業が
出資しているので、そのことが大きな問題となっています。

サハリン1は、日本の共同投資会社であるサハリン石油ガス開発が
30%の権益を保有しており、サハリン2は三井物産が12.5%、
三菱商事が10%を出資しています。

2022年2月28日には、イギリスの大手石油会社シェルが、サハリン2から
撤退する方針を発表し、同年3月1日にはアメリカ石油大手の
エクソンモービルがサハリン1からの撤退を発表しました。

G7に属しているアジアのリーダーとして、日本も撤退を決定することが
国際社会から求められていましたが、2022年3月22日に岸田総理は
「サハリン1と2を日本にとって重要なエネルギー権益として、
大事にしていかなければいけない」と否定的な姿勢を示しました。

しかし、サハリン1はエクソンモービルが持っていた権益をロシアが没収
しているため日本に支配権はなく、サハリン2についても、株式の50%
+1株をロシアが保有しているので、初めから支配権は無いのです。
つまり、日本がいくら天然ガスを売ってくれと言っても、ロシアが
拒否権を持つ現状では、権益を維持することはできません。

戦後賠償の請求

2022年3月3日、トヨタ自動車はサンクトぺテルブルクの工場を
稼働停止すると発表し、ロシア事業からの撤退を決めました。
ホンダもまた、2022年度中にロシア事業からの撤退を決定しており、
これらの企業は戦争によって損害を被るため、ロシアに対して
賠償請求をする権利があります。
日本経済を立て直すには、このような戦後賠償をいかに勝ち取るかが
カギとなるでしょう。

逆に、ロシアにしがみつく国や企業は、戦後賠償を得ることができないと
いうことになりますが、その典型がドイツです。
ドイツ元首相のシュレーダー氏は、プーチン大統領の長年の友人であり、
首相を退任した直後にロシアエネルギー企業の要職に就き、ドイツ国内で
グリーン政策と脱原発を働きかけてきました。

その影響で、ドイツは脱原発を選択し、エネルギー供給をロシアからの輸入に
依存するということで、ノルドストリーム2などのパイプライン事業を通じて、
ロシアの増長に拍車をかけ続けてきたのです。

このことから、ドイツはロシアの共犯者に近い立場ということで、
戦後賠償についての期待はできないだろうと予想しています。
日本の場合、自発的に賢い選択ができたトヨタやホンダは例外として、
多くの企業が政府の曖昧な方針によって動けない状況に陥っており、
そのことが大きな問題をもたらしています。

日本がサハリン1、2に固執しているのは、日本がその権益を捨てれば
中国が得ることになってしまうというのが政府の言い分ですが、
サハリン1、2はロシア側が議決権を保有しているうえ、シェルや
モービルなどの利権を既に接収済みであるため、現実的には
いつでも中国に売却できる状態です。

日本は、運営に関して口を出せる立場にはないというのが実情なので、
サハリン1、2に固執するのは無意味であるにも関わらず、
なぜ岸田総理はサハリン事業を手放さないのか・・・・

実は、ある企業の利権が絡んでいるのではないかと言われています。

岸田総理の地元である広島には、広島ガスという企業があり、原料の約5割を
ロシアから調達しているため、総理の地元有力企業である同社への忖度が
疑われているのです。

一方、即座にロシアの権益を捨てた米英の資源メジャーは、すでに代替調達を
進めており、不足分をスポット市場で調達しながら、他の産地とも交渉し、
増産や長期調達の契約を結ぶ方向に切り替えています。
その一方で、出遅れた日本企業は、新規の長期契約を結ぶ余地がどんどん
失われている現状を、果たしてどれだけの国民が知っているでしょう。

米英の資源メジャーは、こうした一連の代替調達によって生まれる損失を、
戦後ロシアに請求することになるでしょう。
米英は今回の戦争において、経済的な意味での戦勝国になりますが、
わが国日本はどうなのでしょうか?

輸入価格の高騰、エネルギーの不足、電力不足による生産効率の低下、
さらには記録的な円安もあり、日本経済は多層的なダメージに喘いでいます。
このような、危機的状況下で最も良くないのは、どっちつかずの姿勢や
判断の保留であることは言うまでもありません。

投資が損失からしか始まらないように、ピンチは発展への入り口でも
ありますので、目先の権益に惑わされず、他の手段に切り替える方向で
上手く立ち回れば、戦後賠償によってサハリン1、2を手に入れる
ことが出来るかもしれません。

そうなれば、日本もエネルギー産出国となります。
G7のアジア代表として、西側の一員として、毅然とした態度で
対ロシア制裁を行うことが、この困難を乗り切り、戦後の発展を得る
唯一無二の方法であることを自覚すべきです。
日本が真の戦勝国になるために、私たちが選ぶべき道は
それしかありません。

今こそ核保有の議論を!

自民党の政調会長である高市早苗氏は、ウクライナ問題を通じて
目の当たりにした非常に厳しい国際社会の現実を3つに纏めています。

①国連で拒否権を持つ者が、外交を支配する
②核兵器を持つ者が、軍事を支配する
③資源を持つ者が、経済を支配する

日本の隣国である中国やロシアは、この3つを持っているのに対して、
日本は3つ全てを持っていません。
そこで、私たち日本人がいま、真剣に議論しなければならないのは、
国民の生命や、領土、領海、領空、資源を守るために何をすべきか?
という点であると、高市氏は指摘しています。

日本で、このような問題提起を行うと「中立国を見習え!」と、
一部の野党議員が声高に叫ぶのが習わしとなっていますが、中立国は
非武装国ではないということを忘れてはなりません。
例えば、スウェーデンは独自で戦闘機を作るほどの軍事産業大国です。
また、永世中立国のスイスでは国民皆兵制度が採られており、徴兵中に
供給された軍用ライフルを退役後も所有することが可能で、100人当たりの
銃の所有者数は、アメリカ、ドイツ、オーストリアに続いて世界4位であり、
いわば国民皆武装国家でもあります。

「永世中立であること」「国防放棄」は全く違う意味であるという
国際社会の常識を、中立国原理主義の一部野党議員は理解して
いるのでしょうか?

現在、ウクライナがロシアに対して行っているのは、日本の防衛方針である
専守防衛に他ならず、専守防衛をしているが故に、自分たちの国土が
戦地になってしまうということをもっと深刻に捉えなければなりません。

元々ウクライナは、運用と管理こそしていなかったものの、世界3位の
核保有国で、強力な軍隊もありましたが、ブダペスト覚書で核を全部
放棄し、それをロシアに移譲してしまったのです。

ブダペスト覚書とは、1994年12月5日に開催された
OSCE(欧州安全保障協力機構)で署名された覚書のことで、
ベラルーシ、ウクライナ、カザフスタンが核不拡散条約に加盟した代わりに、
協定署名国であるアメリカ、ロシア、イギリスが安全保障を提供するという
内容でしたが、この協定はものの見事に破られてしまい、
ロシアが侵攻してきたのです。

このような、ロシアの約束破りを日本も経験しています。

1941年、日本とソ連は相互不可侵を約束した日ソ中立条約を締結したはず
でしたが、1945年8月8日にソ連は条約を一方的に破棄して、日本に対して
宣戦布告を行ったのです。
満州に侵攻したソ連軍は、軍人・民間人を問わずに虐殺を繰り返し、
日本軍を蹂躙(じゅうりん)しました。

樺太でも戦闘が行われ、日本がポツダム宣言を受諾したにも関わらず、
ソ連は戦闘を継続し、さらには、投降した日本兵捕虜や民間人約60万人を
シベリアなどに連行しました。

戦後も捕虜や民間人への拘束は続き、赤化洗脳と強制労働を行いました。
投降した捕虜や民間人に対する暴力、虐殺が国際法違反であることは
言うまでもありませんが、このような歴史的経緯から、日本はロシアを
信じてはいけないと学んだはずです。

ウクライナ侵攻以降、日本でも核についての議論を行うべきという意見が
強くなっているのですが、保有どころか議論することさえ非難する反対派が
金科玉条のごとくに掲げるのは非核三原則です。

非核三原則は、「核兵器を持たず、作らず、持ち込ませず」というもので、
法律で決められていると誤解している人もいるかもしれませんが、
1971年に採択された国会決議に過ぎません。

核兵器の保有(持たず)と、製造(作らず)については、1955年締結の
日米原子力協力協定や、それに基づいた原子力基本法、さらに
IAEA(国際原子力機関)やNPT(核拡散防止条約)などの
批准によって禁止されていますが、持ち込ませずだけは
国会決議のままです。

高市氏によれば、国会決議のやり直しというのは、ものすごく
ハードルが高いものの、核を持ち込ませずというのは、法律では無いので
議論の余地が残っていると言います。
日米同盟によって、日本はアメリカの核の傘に守られていると言われて
きましたが、アメリカ軍の核を積んだ飛行機や潜水艦、空母などが
日本に来てはいけないという決まりのなかで、本当に日本が守られて
いると言えるのでしょうか?

高市氏の言う通り、今こそ日本も核保有について本格的に議論しなければ
ならないところに来ているのです。

ロシアへの経済制裁でクローズアップされているのが、
資源エネルギー安全保障です。
2021年の時点で、日本はロシアから原油3.6%、天然ガス8.8%を
輸入していました。今後対ロシア輸入分のガス・石油不足をどうやって
補っていくのか?将来に向けてどのように代替措置を取っていくのか?
これは非常に重要な問題です。

日本は、ロシアのみならず、UAE、サウジアラビア、クウェート、
カタールからも原油を輸入しています。
天然ガスに関しても、ロシアよりもはるかに多くをオーストラリアから
輸入しており、先般安倍元首相が訪問したマレーシアやカタール、
アメリカからも入ってきます。
このように、調達先が多様化されていることは、安倍元首相など
多くの先人たちの功績と言えるでしょう。

こうした国々に増産を依頼すれば、ロシアの不足分を補える可能性は
高いかもしれませんが、深刻な問題は輸送にあると高市氏は考えています。
日本に入ってくる原油の9割、天然ガスの6割が台湾の南側にある
バシー海峡を通ってくるため、仮に台湾有事が起きて、このルートが
途絶した場合、日本はどうなってしまうのでしょうか?

そのような懸念から、高市氏は経済安全保障本部と総合エネルギー調査会の
合同会議を立ち上げました。
21世紀の今、経済的な安全保障と軍事的な問題は切っても切れないものと
なっていますので、資源を持たない日本の場合、石油は産業・生活の
生命線です。

私たち日本人は、今こそロシア・ウクライナ問題をエネルギー供給や
核保有といった多方面の切り口から考え直さなければいけないのです。

終わり

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