栄養学の国際的な新常識

メタボリックシンドロームは生活習慣病のリスクが高まると言って、
最近では健康診断で腹囲を測るようになりました。

がん・脳血管疾患・心疾患、更に脳血管疾患や心疾患の危険因子となる
動脈硬化症・糖尿病・高血圧症・脂質異常症などはいずれも生活習慣病であると
厚生労働省ホームページに記載されています。

生活習慣病とは、文字通り病気です。
病気になったら病院へ行くのが普通ですが、病院の先生は生活習慣や
食生活についてのアドバイスをする知識を持っていません。
東洋医学では「医食同源」という考えが根底にありますが、
現代医学(西洋医学)はそうではありません。

現代医学は死んだ体を解剖するところから始まった学問です。
死んだ体ですから、そこに命(いのち)はありません、そのからだを
細かくバラバラに分析して発達してきました。
当然、治療も一つ一つバラバラにして考えますから、
内科、外科、呼吸器科・・・と細分化されていますが、栄養科はありません。

そこで、医師が食事療法を勧める場合でも、実際は栄養士に丸投げという事に
なるのですが、栄養士の教えることが正しいとは限らないといいます。
それどころか、国際的な新常識を知らずに誤った知識のままで
食事指導している場合もあると言いますから、これは大問題です。
今回は国際的な新常識となった、栄養士が知らないかもしれないこと
ご紹介します。

脳はブドウ糖しか使えません

これは大きな間違いです。
残念ながら、こんな場面は、いまだに日本中の病院で
現実に起こっているらしいのです。
いまだにある大学ではホームページに堂々と
そう書いているところもあるそうです。
しかし、これは科学的にも間違っていて、世界中の医学・生理学の
常識では、脳はブドウ糖だけでなく、ケトン体もエネルギーとして
使えることが分かっています。

ブドウ糖しか使えないという誤った常識がまだ生き残っているので、
糖質制限食の普及にとって障害となっています。
なぜなら、脳はブドウ糖しか使えないと信じ込んでいる栄養士は、
「脳のために、必ず、糖質はある程度食べなければならない」と
考えてしまうからです。

ケトン体は脂肪の合成や分解における中間代謝産物で、
脳や筋肉のエネルギー源である糖質(グルコース)が利用できない時に、
肝臓から放出されて血流にのり、筋肉や脳のエネルギー源として
使われます。

現在では、糖質制限は当たり前の選択肢になっている時代です。
栄養士も頭から糖質制限食に反対はしないようですが、
「あまり糖質を制限しすぎると、頭がぼうっとしますよ、
脳はブドウ糖しか使えませんからね、最低限の糖質は食事でとらないと
脳のエネルギーがなくなってしまいます」と言うようになりました。

そして、「糖質制限はほどほどにしましょう」という結論を出します。
誤った糖質制限のやり方をして、頭がぼうっとすることはありますが、
その原因は「糖質不足」ではなく「カロリー不足」です。
改善する方法は、誤った常識を持った栄養士の言うように、主食などで
糖質を少しはとることではなく、糖質の少ないおかずをたくさん食べて、
タンパク質や脂質を増やし、カロリーを補うことです。

「あぶら」を摂り過ぎても病気には結びつかない

健康常識の変化として、たいへん重要なものがあります。
それは、「脂質が体に悪影響を及ぼすと考えていたのは間違いだった」と
いうことです。
これもまた、近年、急速に明らかとなった科学的な事実です。

脂質とはいわゆる「あぶら」のことですが、これまでの健康習慣では、
どうしても食事の脂質は悪者にされがちでした。
「あぶらをたくさん食べると、体のあぶらも溜まっていくんじゃないか」と
思われていたのですが、近年になって科学的な研究が進められた結果、
食事の脂質を生活習慣病に結び付けるのは誤りだったと証明されました。

2008年に『JAMA』という医学専門誌に載った論文があります。
アメリカで5万人の女性を対象にし、半分を通常の食事、
半分を脂肪の少ない食事にして8年間の経過を追った研究です。
結果、脂肪を少なくした食事でも通常の食事に比べて、心血管疾患に
なった人の数は変わらなかったのです。
ほかに大腸がんや乳がんも減りませんでした。

また、動物性脂肪が悪いとする常識も誤りだと証明されています。

さらに、世界で最も権威を認められている医学雑誌
『ニューイングランド・ジャーナル』に2006年11月に掲載された
論文では、脂質の少ない食事と多い食事とを比べても
冠動脈疾患の発生率に変わりがなく、糖質をとる量が多いと
冠動脈疾患のリスクが中程度増加したという結果が出ました。

つまり、脂質を減らしても心筋梗塞は減らず、糖質を増やすと
危険が中程度まで高まるということです。
ほかにも、低脂質食は総コレステロール値に関係ない、
総コレステロール値が低いほど死亡率が高いなど、これまでの
常識を覆す研究結果が次々と発表されています。

最新の医学研究により、「食事のあぶらが体に悪い」という
これまでの常識は、どうやら誤りだったようです。

脂質の悪影響に関連して、これまではさまざまな健康常識がありました。

・あぶらをとりすぎると健康に悪い
・あぶらを減らすとやせる
・動物性の脂肪より植物性の油のほうが健康的
・食事のコレステロールを減らせば健康になれる

今でも、こうした健康常識を信じている人がいるかもしれませんが、
これらはどれも科学的な根拠を証明できなかったわけです。
そもそも、太りすぎの原因は、糖質摂取です。
血糖値が上がるとインスリンの分泌により、筋肉が血糖を取り込み、
血糖値を下げます。
しかし余剰の血糖はインスリンにより中性脂肪に変えられ
体脂肪として蓄えられるのです。
そして血糖値を直接上げるのは糖質だけです。

このように糖質の過剰摂取と、インスリンの過剰分泌が
太りすぎの原因です。
脂質を取ったからといって、それが体脂肪に変わるわけでは
ありませんでした。

卵の個数制限は意味がない

脂質の悪影響に関連して、もう1つ、長い間にわたって
信じられている健康常識があります。
栄養士の中には、いまだに「卵は1日にたくさん食べてはいけません」と
言う人がいるようです。

卵は非常に栄養バランスのとれた食品ですが、コレステロールが多いという
理由で、食べ過ぎるといけないと信じられていたのですが、
これは間違いだったと証明されています。
「食事でコレステロールをたくさん取っても、血液のなかの
コレステロールが増えるわけではない」と明らかにされたからです。

そこで、2015年2月にアメリカでは栄養療法の指針が改訂され、
食事のコレステロールについては気にしなくてもよいことになりました。
さらに同年、日本でも厚生労働省は、「日本人の食事摂取基準」の
2015年版で、コレステロールの摂取制限を撤廃したことによって、
現在の栄養指針では、1日に卵を食べる個数の制限はなくなりました。

ただ、ニワトリのエサに添加物や化学物質を含んだ配合飼料が
使われている場合は、生物濃縮によって、ニワトリの体内に
有害成分が蓄積されてしまいますので、そのようなニワトリが産んだ卵は
何個食べても良いとは言えません。

食事で摂取すべき糖質の必要量はゼロである

糖質は人体にとって必須栄養素ではありません。

必須栄養素とは、人にとって欠かすことのできない物質なのに、
自分の体では作ることができない栄養素です。
必須アミノ酸、必須脂肪酸などがありますが、これらの栄養素は
人の体内では作ることができませんので、食事によって
補給しなければなりません。

実は、赤血球のエネルギー源はブドウ糖だけです。
したがって、人にとって、ブドウ糖は確かに最低限の量は絶対に必要です。
血液中にブドウ糖がないと、赤血球は働くことができなくなり、
人は死にます。

しかし、ブドウ糖は食事で糖質を取らなくても、タンパク質や脂質を
食べていれば十分な量が確保できるのです。
人体には糖新生(とうしんせい)という機能があり、肝臓でアミノ酸や
乳酸などからブドウ糖を作り出すことができるからです。

食事で摂取すべき糖質の必要最小量はゼロ!
これが世界中の栄養学者にとっては常識であり、糖質が減ると
病気になるという心配はまったくありません。

血糖値を直接上げるのは糖質だけ

かつて、栄養士が学校で教わった栄養学では、
「タンパク質や脂質も、血糖値を少し上げる」と教わっていたようです。

しかし、これは古い認識で、実は科学的な根拠のない主張でした。
その後、欧米では生理学的な研究が進められて、食事のタンパク質や脂質は
直接に血糖値を上げないことが確認され、常識となっているのです。
アメリカの糖尿病学会(ADA)の患者教育用テキストブックにおいても、
2004年からこのことが明記されています。

ところが、日本の栄養学の教育現場では、いまだに古い認識を
そのままにしていて、間違っていた教育を受けた栄養士たちは、
「糖質だけ減らしても、タンパク質や脂質だって血糖値を上げるんだから、
あまり意味がないじゃないの」と思っています。

こんな誤解をしてしまっては、糖質制限食の
意義がわからないのも無理はありません。

正しい常識では「食事を摂った時、血糖値を直接に上げるのは
糖質だけなので、食事の糖質を減らせば減らすほど、
食後の血糖値は上がらなくなる。
血糖値が上がらないから、インスリンもあまり必要なくなる。
高血糖も高インスリンもないから、糖尿病にも肥満にも
動脈硬化にもなりにくい」というのが科学的に証明されている事実です。

「タンパク質の摂り過ぎが腎臓に悪い」には根拠がない

今までは、タンパク質を摂り過ぎると、腎機能に悪影響があると
信じられていました。

糖質制限食は糖質を減らす分、脂質やタンパク質の摂取が増えますが、
タンパク質の摂り過ぎは腎機能に悪影響があると考えられていたので、
糖質制限は腎臓に悪いとする医師や栄養士がいました。

ところが、この健康常識にも、疑いの目が向けられています。
というのも、タンパク質の摂り過ぎが腎機能の悪化につながるという、
確かな医学研究がないからです。

そのため、この常識も変わりつつあります。

まず、厚生労働省は腎機能の正常な人について、タンパク質を摂る量の
上限を設けることをやめました。
2015年度版の「日本人の食事摂取基準」(厚生労働省)では、
タンパク質の過剰摂取による健康障害には十分な根拠はないと
訂正したのです。

腎機能に障害のある人については、日本腎臓病学会はまだ
「低たんぱく食を推奨する」としています。
けれど、この推奨には科学的根拠があまりないことを
学会自身も認めているのです。

実は、2013年10月、アメリカ糖尿病学会(ADA)は
栄養療法に関する声明のなかで、「糖尿病腎症に関しては、
低たんぱく質食を推奨しない」と言い切っています。
腎症であっても、タンパク質を控えることによる効果はなかったと
アメリカ糖尿病学会が判断したということです。

「腎機能の障害のある人には低たんぱく食」という常識も
変わりつつあるのです。

日本の栄養学は最新知識を反映していない

日本では、栄養学のレベルが病院によってバラバラだという現状があります。

現場の栄養士さんが最新知識をよく勉強していればレベルが高く、
不勉強だと間違いが多いという具合に、あくまでも個人の努力に頼った
食事指導がなされているようです。

これは、栄養士の認識が低いからです。
そもそも日本では栄養学の地位が低いため、科学的に検証されていない
事柄を、疑いもしないで堂々と教えてしまうのです。

欧米では栄養学の地位はもっと高く、きちんとした科学として
扱われています。
「人間にとっての栄養とは何か?」
生理学的にきちんと事実を解明し、病気との因果関係を統計学的に
調べてから事実として採用しているのです。
これらは「人間栄養学」という分野で、医学部でも
基礎知識としてしっかり教育しています。

これに対して、日本の栄養学の現状は寂しい限りで、そもそも
「人間栄養学」そのものが学問として存在しません。
短大や専門学校の養成課程を卒業すれば「栄養士」の資格を
得られてしまいます。
さらに、4年制大学の栄養学コースを出て、簡単な国家試験をパスすれば
「管理栄養士」になれてしまうのです。

どちらの場合も教育内容は、数十年間ほとんど変わっておらず、
新しく解明された科学的な事実もあまり教えられていないようです。

これでは、日本の栄養学は欧米から取り残されてしまいます。
日本と欧米とで、栄養学の地位の差が象徴的に表れているのは、
医学教育における態度の違いということなのです。
1日も早く、科学的な最新知識を学び、栄養学の教育現場に
反映していただきたいと思います。

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